20代で焦らず、30代で迷わず、40代で後悔しないキャリア設計

Career

キャリアは育てるもの

現代のビジネスパーソンにとって、キャリア形成は単なる職業選択ではなく、人生の大きな部分を占める重要な課題です。特に20代から40代にかけては、将来を見据えた重要な決断の連続であり、この時期の選択が後の人生を大きく左右します。

多くの人は「いいキャリアとは何か」という問いに明確な答えを持っていません。「何か一つのことをやれば手に入るもの」と考えがちですが、実際には様々な要素が絡み合う複雑なものです。本記事では、リクルート、Amazon、LINEといった大手企業を渡り歩いてきた人事のプロフェッショナル、青田努氏の考え方をもとに、損をしないキャリアの選び方と育て方について詳しく解説します。

キャリアを考える難しさ

青田氏は自身のキャリアについて考え続けた結果、様々な会社を経験し、最終的には美術大学への進学という新たな挑戦に踏み出しました。彼によれば、キャリアを考えることが難しい理由は主に以下の点にあります:

  • 変数が多い: 業界動向、経済状況、個人の適性など、考慮すべき要素が多い
  • 複雑度が高い: 様々な要素が複雑に絡み合っている
  • 長期的視点が必要: 短期的な判断だけでなく、10年、20年先を見据える必要がある
  • 情報不足: 特に若いうちは、自分自身についての情報(適性や好み)も不足している

こうした難しさを乗り越えるために、青田氏は「キャリアの旬」という考え方と「5つの資」というフレームワークを提案しています。

キャリアにも「旬」がある

キャリアには「旬」があります。これは年代ごとの「頑張りどころ」が異なるという考え方です。40〜50代で理想的なキャリアを築くためには、20〜30代をその準備段階として有効活用する必要があります。

「キャリアの旬を逃す」とは、若いうちに身につけておくべき経験やスキルを獲得できず、後の選択肢を狭めてしまうことを意味します。例えば、20代で様々な経験を積まず、自己理解を深めないまま30代を迎えると、その後の転職や成長の機会が限られてしまいます。

「5つの資」から考えるキャリア形成

キャリア形成のプロセスを「5つの資」というフレームワークで説明しています。これは逆の順番から見ていくと理解しやすいでしょう。

1. 資産(最終目標)

資産とは、単にお金だけではなく「働く理由となりうる価値」のことです。仕事には大変なことがつきものですが、それでも頑張れる理由となるものが「資産」で、以下の5つです:

  • 信頼と繋がり:
    • 人間関係の資産は、特に40〜50代以降の人生に大きな影響を与えます。
    • 共に働いた仲間や業界内の人脈は、新たな機会を生み出したり、困難な時に支えになったりします。
    • 一人では成し遂げられないことも、信頼関係を基にした協力によって可能になります。
  • 金銭的余裕:
    • 経済的な不安を抱えたまま40〜50代を過ごしたいと思う人はほとんどいません。
    • 若い世代が悩むキャリアの多くは、将来の経済的安定を前提としています。
    • 老後の生活資金や子どもの教育費など、将来的な出費に備えることも重要です。
  • 人や社会への貢献実感:
    • 自分の仕事が誰かの役に立っている、社会に価値を提供しているという実感は大きな喜びです。
    • 貢献実感は内発的動機付けにつながり、長期的なモチベーション維持に寄与します。
    • 自分の存在意義を感じられることは、精神的な充足感をもたらします。
  • 自分なりに感じる価値:
    • 一般的な価値観だけでなく、個人が独自に持つ価値観も重要です。
    • お金や地位にこだわらず、自分が大切にしたい価値に沿った生き方もあります。
    • 自分自身の価値軸が明確であれば、それに従った選択が可能になります。
  • いい思い出:
    • 全ての人が仕事で世の中に大きな足跡を残せるわけではありません。
    • しかし、共に働いた人々との思い出や、困難を乗り越えた経験は貴重な財産になります。
    • 過去の経験を「良い思い出」として振り返れることは、人生の豊かさにつながります。

2. 資本(武器・強み)

資産を蓄積するためには、社会人としての強みや武器が必要です。それが「資本」です:

  • 専門性・技術:
    • 特定分野での深い知識や技術的スキル(エンジニアリング、デザイン、マーケティングなど)。
    • 業界特有の知識や経験(特定業界の商習慣、規制、市場動向の理解など)。
    • 職種に関連する専門資格や認定(公認会計士、弁護士、各種技術認定など)。
  • マインドセット:
    • 物事への取り組み方や姿勢(粘り強さ、前向きさ、挑戦する姿勢など)。
    • 変化への適応力や学習意欲の高さ。
    • 責任感や倫理観、チームワークの姿勢など。
  • 思考力・判断力:
    • 複雑な問題を整理し、解決する能力。
    • 状況を適切に分析し、最適な判断を下す能力。
    • 創造的な思考や戦略的な視点。
  • 実績・信頼・評価:
    • 過去の仕事での具体的な成果や達成。
    • 周囲からの評判や信頼。
    • 業界内での知名度や評価。

3. 質(支出の質)

同じ資源(時間やエネルギー)を使うなら、自分に合った分野や得意な分野に集中した方が効果的です。これが「質」の概念です:

  • 自分の適性や興味に合った領域に時間を使うことで、より大きな成果が得られます。
  • 自己理解が不足していると、向いていない分野に時間を費やし、成果が出にくくなります。
  • キャリアを通じて自己理解を深め、より自分に合った選択をしていくことが重要です。

例えば、同じ10時間を投資するなら:

  • 自分が好きで得意な分野であれば、高いモチベーションと集中力で大きな成果を出せる
  • 苦手で興味のない分野では、同じ時間を使っても成果は限定的になりがち

4. 資源(時間・エネルギー)

資源は「次元的リソース」とも呼ばれ、時間の経過とともに減少していくものです:

  • 仕事に使える時間:
    • 若いうちは比較的自由に時間を使える場合が多いですが、ライフイベントとともに制限されていきます。
    • 結婚、出産、育児、親の介護など、様々な要因で仕事に使える時間は減少していきます。
    • 20代のうちに時間を有効活用し、将来の「資本」を構築することが重要です。
  • 体力・エネルギー:
    • 若いうちは体力があり、長時間の労働や集中的な学習が可能です。
    • 年齢とともに体力は低下するため、若いうちの体力を活かした挑戦も検討する価値があります。
  • 学習能力:
    • 新しい知識や技術を吸収する能力も若いうちの方が高い傾向にあります。
    • 若いうちに基礎的な学習能力や思考法を身につけておくと、後々の学習にも役立ちます。

5. 資格(挑戦権)

ここでの「資格」は国家資格などではなく、「やりたいことへの挑戦権」を指します:

  • 就職や転職によって、新しい環境で挑戦する権利を得ること。
  • 特に若いうちは、まだ何がやりたいかわからないことが多く、様々な経験を通じて自己理解を深める段階。
  • 大学の専攻選択、就職先の選択、転職の決断などは全て「挑戦権」を獲得するプロセス。

損をしないキャリアの育て方

いいキャリアとは「資格を得て、資源を元に質を生かして資本に変え、最終的に資産として蓄積していく」プロセスです。資源は減っていく一方で、資本と資産は増やしていく必要があります。

20代のキャリア戦略

20代は「何がやりたいかわからない」状態が普通です。この時期の戦略としては下記がポイントです:

動くことの重要性

「やりたいことが分からないから動かない」のではなく、「動かないからやりたいことが見つからない」というのが真実です。実際に行動することで初めて見えてくるものがあります:

  • インターンシップや短期バイトでさまざまな業界や仕事を体験する
  • 学生時代から積極的に就業経験を積む
  • 新しい環境や挑戦を恐れず、「無駄」を恐れないチャレンジ精神を持つ

関心の幅を広げる

自分の可能性を狭めないために、様々な経験を通じて関心の幅を広げることが大切です:

  • 異なる業界のイベントや勉強会に参加する
  • 多様な分野の本を読んだり、人と交流したりする
  • 「これは自分には向いていない」という発見も貴重な情報

働く経験を通じた自己分析

就活でよく言われる「自己分析」は、働いた経験がないと適切にできません:

  • 机上の空論ではなく、実際に働いてみて得られる情報をもとに自分を知ることが重要
  • 「自分が働いたときの自分についての情報」がなければ、分析結果は不正確になりがち
  • 一社目の経験から得られる自己理解をもとに、次のステップを考えることができる

ファーストキャリアの重要性と限界

最初の就職先が必ずしも理想的である必要はありませんが、できるだけ良い環境を選ぶことで成長が加速します:

  • 尊敬できる人がいる環境を選ぶことが重要
  • 一社目で全てが決まるわけではないが、基礎的なビジネススキルや考え方を学ぶ場として重要
  • 転職するにしても、一社目での経験や実績が次の選択肢を広げる

キャパシティの管理

仕事の成果を最大化し、長期的に活躍するためには、自分のキャパシティを適切に管理することが重要です。キャパシティを4つに分類し、優先順位をつけます:

1. 心のキャパシティ(メンタル)

最も優先すべきは精神的な健康です:

  • メンタルが崩れると他の全てに影響する
  • ストレスの兆候に早めに気づき、対処する習慣をつける
  • 自分の限界を知り、無理をしない判断力を持つ

2. 体力のキャパシティ

身体の健康も非常に重要です:

  • 規則正しい生活習慣、適度な運動、バランスの取れた食事を心がける
  • 睡眠不足が続くと判断力や創造性が低下する
  • 体力がメンタルに与える影響も大きい

3. 能力のキャパシティ

自分の現在の能力の限界を理解することも大切です:

  • 今の自分の能力で対応できる範囲を把握する
  • 能力を超えた仕事を引き受ける場合は、成長の機会と捉えつつも適切なサポートを求める
  • 能力向上のための学習や訓練を計画的に行う

4. 時間のキャパシティ

限られた時間をどう使うかも重要な要素です:

  • 24時間という制約の中で優先順位をつける
  • 「予定がないから埋める」のではなく、休息の時間も意識的に確保する
  • タスクの重要度と緊急度を考慮した時間配分を行う

「倒れないために休む」という考え方

「倒れたら休む」ではなく「倒れないために休む」という考え方:

  • 休息は「怠け」ではなく、パフォーマンスを上げるための戦略的な選択
  • F1レースでいえば「ピットイン」のような、次の走りのためのメンテナンス時間
  • 休むことに罪悪感を感じるのではなく、プロとして必要な自己調整と捉える

専門性を考える

キャリアの悩みとして多いのが「専門性がない」という不安です。専門性について、2つの視点から考えることを提案します:

分野の専門性

一般的にイメージされる職種や技能に関する専門性です:

  • エンジニア、デザイナー、会計士などの職種に関連する専門知識や技術
  • 特定業界(金融、IT、製造業など)に関する深い知見
  • 特定の機能(マーケティング、人事、財務など)における専門的スキル

社内の専門性

組織内でどう動けば成果が出せるかという知識や経験です:

  • 社内の意思決定プロセスやパワーバランスの理解
  • 組織文化や暗黙のルールへの適応能力
  • 社内リソースを効果的に活用する方法の習得
  • 特定の組織での経験や人間関係の構築

専門性の掛け算

どちらか一方だけでは不十分で、掛け算が重要です:

  • 分野の専門性だけがあっても、組織での活かし方がわからなければ成果は出にくい
  • 社内の専門性だけでは、具体的な価値提供が難しい
  • 理想的には両方を持ち、状況に応じてバランスを取ることが重要

20代後半での専門性の不安について

20代後半で「専門性がない」と不安に感じる人は多いですが、焦る必要はありません:

  • 周りに尊敬できる人がいる環境にいれば、まずは安心して経験を積むべき
  • 専門性の構築には時間がかかるもので、30代の終わりまでに形成されていれば十分
  • 若いうちは様々な経験を通じて自分の適性を見極めることも重要

ただし、30代終わりまでには何らかの専門性を身につけておくことが理想的です。そのためには、自分の強みや興味を分析し、計画的にスキルアップしていく必要があります。

お金との向き合い方

キャリアを考える上で避けて通れないのが収入の問題で、以下の2つのアプローチを提案します:

必要な金額を試算する

自分がいくらあれば安心できるのかを明確にすることが重要です:

  • 65歳で仕事を終えた時にいくら必要か計算し、そこから逆算
  • 各年齢での目標収入を設定し、それに対して現在の収入が適切かを判断
  • 「もっと欲しい」という際限のない欲求ではなく、具体的な数字を持つ

仮に100歳まで生きると仮定して65歳までの必要収入を試算し、現在の選択の参考にしていきましょう。

経験のための投資と考える

年収が下がる転職でも、新しい経験やスキルを得られるなら長期的には価値があると考える視点も重要です:

  • 年収100万円下がっても、その経験から得られるものが大きければ「投資」と捉える
  • スキルアップや新たな分野の経験は、将来的な市場価値向上につながる可能性がある
  • 短期的な収入減と長期的な可能性のバランスを考慮する

キャリアの定期的な棚卸し

自分のキャリアを客観的に見つめ直すために、定期的な振り返りが重要です:

職務経歴書の定期的な更新

青田氏は社会人2年目から1年に1回、職務経歴書をアップデートする習慣をつけています:

  • 1年間で達成したこと、身につけたスキル、担当したプロジェクトを記録
  • 忘れないうちに記録することで、自分の成長の軌跡を振り返ることができる
  • 転職する際にもすぐに準備ができる状態を維持できる

自己分析の継続

自己分析は就活時だけでなく、キャリアを通じて継続すべきプロセスです:

  • 定期的に自分の強み・弱み、好き・嫌いを見直す
  • 新たな経験から得られた自己理解を蓄積していく
  • 変化する自分の価値観や優先順位を把握する

キャリアの悩みを解決するための問いの立て方

キャリアの悩みでは「このままでいいのだろうか」という漠然とした問いを投げかけがちです。しかし、これは難問すぎて答えが出ません。「問の精度」を上げることの重要性を強調しておきます:

問いをブレイクダウンする

漠然とした大きな問いを、より具体的で答えやすい小さな問いに分解します:

  • 「このままでいいのか」→「現在の仕事で成長しているか」「5年後にどんなスキルを持っていたいか」
  • 「転職すべきか」→「現在の年収は将来設計に対して十分か」「今の環境で尊敬できる人はいるか」
  • 「専門性を身につけるべきか」→「どんな分野に興味があるか」「週に何時間学習に使えるか」

回答可能な問いを立てる

自分が今持っている情報で答えられる問いを立てることが重要です:

  • 情報不足で答えられない問いは、必要な情報を集める行動に変換する
  • 例:「この業界に向いているか」→「この業界について詳しい人に話を聞く」「1週間インターンで体験してみる」

行動につながる問いを意識する

問いの目的は最終的に行動することです:

  • 永遠に悩み続けるのではなく、次の一歩につながる問いを立てる
  • 「もし〇〇だったらどうするか」という具体的な選択肢を示す問いが有効

キャリアは我慢大会ではない

最後に、「キャリアは我慢大会ではない」と強調しておきたいです:

目的のある我慢と目的のない我慢

目的があって我慢することと、理由もわからず我慢することは違います:

  • やりたいことのためにやりたくないことをするのは「良い我慢」
  • 何のために我慢しているかわからない状態は再考の必要がある
  • 目的意識を持って取り組むことで我慢も成長の糧になる

変化を恐れない勇気

状況が合わないと感じたら、変化を検討する勇気も重要です:

  • 違和感を感じたら、その正体を探る
  • 様々な選択肢を検討し、行動してみる
  • 転職しても合わなければ戻る選択肢もある

キャリアの旬を意識する

資源(特に時間)は有限であり、「旬」を逃さないことが重要です:

  • 悩んでいる間に時間は過ぎていく
  • 一定の年齢を超えると選択肢が狭まることもある
  • 適切なタイミングで行動することの重要性

自分だけのキャリアを育てる

「5つの資」というフレームワークを通じて、キャリアを育てる考え方について解説してきました。最終的には、自分自身の価値観や優先順位に基づいた判断が重要です。

  • キャリアは「一つの正解」があるものではなく、個人の価値観や状況によって異なる
  • 目の前のことに取り組みながらも、長期的な視点を持つことが大切
  • 動くことで見えてくる景色がある、まずは行動してみることから始める
  • 定期的に自分のキャリアを振り返り、方向性を見直す習慣をつける

自分のキャリアの「旬」を逃さず、資源を効果的に使って資本を築き、最終的に価値ある資産を蓄積していくことが、損をしないキャリアの育て方と言えるでしょう。

キャリアは単なる仕事の連続ではなく、自分自身の成長と幸福を追求するストーリーです。その主人公として、自らの手で理想のキャリアを育てていきましょう。

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